(秘宝館昇天堂一座の歴史)
話は1986年、ブギーシアターIIの結成に遡る。
ブギーシアターを結成して4年、6本のオリジナル作品を上演していた
白神貴士(須摩寅吉童/柏屋ぴよ吉)が井上宏行(千石マリア)林清文たちと
結成したのが「II」である。そこに、ダンスの振り付けを頼まれてやってきたのが、
座長玉木崇子(珠酉娘娘)であった。
座長は当時、DDB(DoingDancingBeginnings-佐藤淑子氏主宰)という
創作ダンスのグループに属していたが、ブギーIIに居着き、役者としても活躍を始めた。
ブギーシアターは1992年11月まで続き数々の実験的作品を上演した。
観客席と舞台を上演中に交換したブギーショー、8人が各シークェンスを作・演出した
「時空魔竜の伝説」牛窓の荒野に幻想の都市と祭りを現出し損なった「DRAGOON祭」、
全く台本のない況設定だけのアドリブ劇プロレスラー物語」、
1週間で書かれた台本を2週間の練習で完成度の高い作品に仕上げた「パシヲン」
5ヶ月間に5作品を上演した即興連続演劇シリーズ「渡星人伝」
指人形劇・影絵・着ぐるみ人形劇・落語・河内音頭・歌舞伎など多彩な方法論で、
同じ台本を「血涙編リアスバージョン、「超越編」−シュールバージョン、
と二日間で演じ分けた「GODAIGO」(3時間作品だった)、
テーマ・設定・粗筋と全員によるブレーンストーミングで作られた「TREE」、
上演時間4時間のオリジナルロックミュージカル「DERISOIRE」、
女だけ、男だけで演じられた「ネコナーデネコノトピア」と「愛のDNA」
能の世界を意識した「正儀」、
精神世界を迷路の中で演じた「HOM」など・・
オリジナル作品のみを上演したブギーシアターとは違って秘宝館昇天堂一座は、
つかこうへい氏の「寝盗られ宗介」を一人八役・2時間半の一人芝居に仕上げるという
破天荒な作品で93年5月旗揚げした。
座長この難作品を対話シーンも客目線で
男女キャラクターを使い分けるという画期的な方法論で
踊りや歌も取り混ぜて見事に演じ分け好評を博した。
「宗介」は殺陣シーンなどに、役者を増やしつつ「超一人芝居」として
GS・ソウル・フォークとバージョンを替えつつ上演を重ねた。
フォークバージョンから一座に入門した福井美保(伽羅子)の
芸名変更(月下美人から)を記念して二本の芝居と歌と踊りのショーという、
大衆演劇スタイルの公演が行われたのが94年7月だった。
前狂言「うたた寝の三次旅日記」切狂言「ラーギニー−獅子と王女とその息子の物語」、
グランドショー「ミッドサマードリーム」を、客演を含めた8人の役者で上演して好評を博した

この年11月に、岡山県芸術祭中心公演として上演された
ナイトオブウォーリアーズという合同公演の、作・演出に白神、
出演に珠酉、伽羅子、お京天地等が参加し、
また、翌95年の銀仮面団春公演「広島に原爆を落とす日」に珠酉が、
秋公演「サイレント・ナイト」に吉童が客演したため、
昇天堂一座にとって95年は新人育成と、充電期
間となった。
現在の座員のほとんどは
この時期に一座に入っている。

踊り、三味線、着付け、
観劇、発声、柔軟、エチュードと、
基礎練習を中心に実力養成に重点を置いた。この努力の結果を試す日がやってきた。
96年4月城下交差点地下広場でのしろちかコンサート(しろちか利用促進協議会主催)
阪神大震災チャリティー「歌舞の宴」である。

道行く人を観客とし、一人その視線の中で歌い踊ることで、度胸と自信を得ることが出来た。
昼すぎから3時間半にわたる催しは、熱心な観客の方々や、
ゲストの方々に支えられて成功に終わり9万円余の浄財を寄贈する事が出来た。

そして2週間後の5月11日、今度は特別公演「厨子王」の幕が上がった。
この作品は、近藤ようこ氏の漫画作品を原作にして3時間2幕にまとめたもので、
獅子、大蛇、怨霊等の作り物や、血の海のセット、飛天、白拍子等の豪華な衣装、
そして、多彩な踊りや歌を散りばめた、中世の復讐たんである。


一面、悲しく酷くグロテスクでさえある話を、美しく面白く、笑いを交えて描き出すという作風は、
秘宝館昇天堂一座の得意技であるのかも知れない。
好評の内に約一年を掛けた、この特別公演を終えて、
一座は、休む間もなく1996定期公演へと走り出すのであった。

秘宝館昇天堂一座の96年度定期公演は、
11月23日24日表町3丁目の千日前貸しホールで開催されました。
第一部(前狂言)として上演されたのは「風雲剣士暁にきる!!」
米浦藩公金横領疑惑に絡むお家騒動を謎の怪剣士、
実はヒヨコの佐々木比与之進が一刀両断にするという痛快娯楽時代劇でした。
(原案・林清文/珠酉娘娘、演出・珠酉娘娘)

第二部(切狂言)は「清滝の双子の姉妹」清滝の木の下に捨てられていたという

双子の姉妹、お光・おさちの数奇な運命を、北斗星君・南斗星君に命じられて時を旅する時逆・時順の二人を狂言廻しに描く、
一座総出演の妖美な伝奇時代劇でした。
作・演出は初挑戦の戸建一太朗が新鮮な感覚で
井手豊・ZOTTE・土佐一本ズリ太郎3氏の映像を交えて創り上げました。
第三部(歌と踊りのグランドショー)「吼えろ虎怒れ龍」
舞踊西崎流、西崎緑亜さんの「チエッ子よされ」「武田信玄」を加え、
座員が工夫を凝らした歌や踊りの新作出し物が披露されました。
なかでも、葛波羅・戸建の、二人舞踊「熱いヤギ」は、新境地を開拓し、
福笑かどの歌は中年ファンを悩殺し、座長は、お客様全員と握手しながら
「河内おとこ節」を歌い好評を博しました。
このような三部構成は昇天堂が敬愛する「大衆演劇」の世界に学んだ構成です。
喜劇、悲劇に泣き笑い、踊り・舞いに歌を楽しみ、笑顔に送られて小屋を出る。
大衆演劇の持つ、ナチュラルなヒーリング・パワーを、
ささやかなりとも私達の舞台に取り入れたいと願っているのです。
1月18日、「カリスマ」イベント内での「RINNE〜誕生と死」は、
昇天堂一座には珍しい現代風味のパフォーマンスでした。
6月8日しろちか広場では、「しろちかコンサートHIVと人権チャリティー歌舞の宴97」が開催され、
「HIVと人権・情報センター岡山支部」の協賛を得て、楽しいクイズやパネル展示も行いました。
また西崎緑亜さんの振り付けによる、みんなで踊れる日本舞踊「好きになった人」を観客の皆様と一緒に踊りました。

1997年度の定期公演は、6月28日・29日、千日前貸しホールで開催されました。
お芝居は2本、どちらも短編劇集のビデオからで、  
一本は琴蕗百合音・作「昔話羽衣表紙〜むかしがたりはごろもびょうし〜」
天の羽衣をめぐる宮大工の宗助と、天人輝夜(カグヤ)の愛の物語を
作・琴蕗百合音、演出・葛波羅踏馬が手がけました。

輝夜役・一座初のトリプル・キャストも話題になりました。
もう一本は、座長・珠酉娘娘の作・演出で「JIJI&BABA」。
能や人形浄瑠璃の様に、セリフを喋る役者と、動きを演じる役者を別にして、
二人一役システムで演じ、「おむすびころりん」「笠地蔵」「鶴の恩返し」等の

昔話を散りばめたお爺さんとお婆さんの愛の物語でした。
この愛の作品2本に、昇天堂名物の歌や踊りのグランドショーが加わって、
「天晴れ公演」は副題の「愛してるぜ!」気分満載で好評を博しました。
そして特別公演「朱砂之雄」というビッグ・プロジェクトが始まったのです。


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