秘宝棺昇天堂一座結成10周年記念・座長身勝手特別アトリエ公演
超絶的一人芝居
寝盗られ宗介

 つかこうへい

演者 玉取娘々
演出 演出向上委員会/音楽 赤田晃一
STUFF 藤下乙真女・大安萬備G・五福鶴丸・ホープ若本・王子寿雲・葛原昇・志樹縁・白神貴士 他
  

日時
5月3日 午後9時開演
5月4日 午後7時開演
5月5日 午後7時開演
場所
スタジオねいな
(岡山市中山下1-6-58栄晃ビル2F)
御代
お帰りお見立制

【登場人物】
旅芝居一座の座長(攻撃的マゾヒスト)
その女房(純情派浮気女)
ジミー(天然型ナルシスト)
すず子(思いこみ恋愛少女)
【劇中劇の人物】
下剃り宗介
女郎十手持ち
上方役者辰之助
芸者お志摩
表情のスペクタクル!感情のアクロバット!一人芝居という名のサーカス!  by 白神貴士

 ビデオから静止画像を起こしながら閉口した。表情をテーマに画像を掲載したのだがそのバリエーションとクオリティに圧倒されてしまう・・・いくつキャプチャーしても足りないのだ。かれこれ100枚以上、それも眼をつぶって早送りしないと先に進めない。瞬時に変わってゆく表情は屋久島の森で立ち往生したことを思い出させるほど多彩でチャーミングだ。サイズなどの組み合わせでこうなったが十分の一も伝えられない・・・時間を無制限にかけるわけにも行かず、本当に困った。
 
 一人芝居といっても長台詞が延々続くような退屈なものでは無い。3人以上のキャラが同時に存在する対話場面もある。
キャラ毎のの心理・感情を並列処理しながら刹那に切り替えて激しい論争、修羅場が進行もする。観ていると「演劇」とは別の何かを体験している自分に気付く。玉取娘々の本当の凄さが良くわかる作品だ。こんな女優は多分他にはいない。声も顔も仕草も感情も、男女、老若、国籍、往々にして生物学的分類までも飛び越して行く。「外」からつけた演出や振りでなく、いくつものキャラクターが玉取娘々の内部から細切れに発生し、カットアップされて物語が進む。そう、一人として死んだキャラクターはいない、みんな生きているのだ。だからこそ赤田晃一氏のSAX、PERC等と即興で反応し、お客に絡んでもゆける・・・

 10年前の初演時から、そのエネルギー消費量、所要時間を含めて、この一人芝居を『マラソン』に喩えてきた。その伝で行くと初日は(若干のショートカットは有ったが)2時間7分の自己新記録。"神速"と表現したい程のピッチの早さで一気に走りきり、切り替えの早さ、動きの切れを印象付けた"速度の芸"。二日目は2時間25分とタイムこそ落ちたが、観客との駆け引き、遊びを多用してたっぷりと楽しませ、感動させる観客本位の"芝居"。三日目はお客様が入りすぎた故の問題や、道具のアクシデントなどで集中力を削がれたが「タオルを投げて欲しかった」コンディションを土俵際で踏みとどまり2時間30分で無事ゴールする二枚腰のスタミナを見せた。10年前よりパワーは落ちても、技術と経験で3連戦を乗り切り、より俊敏に、より自由に、よりテーマを深めた『進化』の程を見せてもらった。玉取娘々恐るべし!

 二日目こそ雨もあってお客様が少なかったが、他は計算以上の大入りでにぎわった。お見立て制の入場料も平均1300円以上を戴いたという。今回、音楽は赤田晃一氏の名演奏に支えられ、縁の下の力持ち部隊の尽力で成功した舞台は座長玉取にとって、大きな財産になったに違いない。再々演も期待したい。
                  

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